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和歌山簡易裁判所 昭和32年(ハ)206号 判決

原告 玉井益治

被告 国

訴訟代理人 麻植福雄 外二名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「被告は原告に対し金四万二千九百五円と、之に対する昭和三十二年六月一日以降完済迄年五分の割合による金員とを支払え。訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、その請求原因として

一、原告は昭和三十年三月十日訴外中島由一から同人が同雑賀波子に対して有する金四万五千円の額の貸金債権とその担保として認定した右雑賀所有和歌山市田尻二八二番地ノ二宅地百五十坪(以下本件土地という)上の第一順位の抵当権(以下本件抵当権という)とを譲受け、同日之が取得登記を経由した。

二、訴外株式会社久保商店は右雑賀に対して有する金銭債権に基き、その執行保全のため昭和二十八年三月七日本件土地に対する大阪地方裁判所の仮差押命令(以下本件仮差押命令という)を得、更に右債権の執行として昭和二十九年十月七日和歌山地方裁判所に本件土地の強制競売を申立てた。(和歌山地方裁判所昭和二十九年ヌ第五三号不動産強制競売申立事件)右競売申立事件において本件土地は訴外田村岩友が競買価額金九万円で競落し、その許可決定があり、次いで昭和三十二年三月二十七日和歌山地方裁判所で開かれた配当期日において原告は配当表に基き金二千五十円の額の配当の実施を受けた。

三、しかし本件土地に対する本件抵当権の設定登記は和歌山地方法務局昭和二十八年二月二十四日受付第一、七二八号により本件仮差押の登記は同法務局昭和二十八年三月十一日受付第二三〇四号によりそれぞれなされている。この事実によると前者の順位は後者のそれに優先するから前記競落代金につき右抵当権者たる原告が右仮差押債権者たる株式会社久保商店に先だつて前記貸金債権の弁済を有することはいうまでもない。そうすると、原告は前記競落代金九万円からその債権全額である金四万五千円に相当する額の配当を受け得る筈であるから之と相違する前記の配当は明かに誤つている。

四、本件低当権設定登記の受付日付は前述の如く昭和二十八年二月二十四日であるのに前記強制競売申立事件の記録中、競売申立書添付の和歌山地方法務局法務事務官作成本件土地登記簿謄本には「昭和二十八年六月二十四日」と記載されている。この記載は勿論右法務事務官の過失による誤記であつて、この誤記のため裁判所は本件仮差押登記が本件抵当権設定登記に先立つてなされたものと認定し右抵当権者たる原告の優先弁済受領権を認めなかつた結果前記の誤つた配当が行われたのである。

五、原告は当然金四万五干円の額の配当を受けるべきこと前記の通りであるのに右の誤つた配当の結果金二千五十円の額の配当しか受けられなかつたのであるから、之によりその差額である金四万二千九百五十円の額の損害を被つたことになる。而してその原因は国家公務員たる和歌山地方法務局法務事務官がその職務たる本件土地登記簿の認証を行うについて犯した前記過失にあるこというまでもないから、被告に対し右損害の賠償として金四万二千九百五十円と、之に対する訴状送達の日の翌日である昭和三十二年六月一日以降完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金との支払を求める。

と陳述し、

被告指定代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として、

原告主張事実中その主張の各登記が存在すること、及び和歌山地方法務局法務事務官作成の本件土地登記簿謄本に原告主張の誤記があつたことは認める。その余は知らない。かりに原告主張事実がすべて事実だとしても、右誤記と、原告が受け得べかりし配当を受け得なかつたこととの間には因果関係がない。なんとなれば同一不動産の登記の前後は登記用紙中別区になされたものの間では受付番号によることは不動産登記法第六条第二項に定めるところであるから本件抵当権と本件仮差押との間の順位の優劣は専ら受付番号によるべきであつて、受付の日付によるべきではない。そうすると受付の日付と右各登記した権利の順位との間には何らの関係なく従つて右日付の誤記のため右各権利の順位が誤つて認定されるということはあり得ないからである。よつて右誤記を原因とする原告の本訴請求は失当であると陳述した。

〈立証 省略〉

理由

原告主張事実中一乃至三は甲第一号証(登記簿謄本)と取寄にかかる執行記録とによつて之を認め得る。又本件土地登記簿謄本に原告主張の誤記の存することは当事者間に争がない。しかし右誤記と右認定にかかる原告主張の誤つた配当がなされたこととの間に因果関係の存しないことは被告の主張する通りであるから、右配当によつて被つた損害を被告に対して求める原告の本訴請求は理由がない。よつて之を棄却し訴訟費用につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 入江教夫)

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